なぜクマネズミは壁や配管を登れるのか?
高所へ進出する身体能力
夜になると、外壁を走り、配管や電線を伝って屋根裏へ向かうクマネズミ。 まるで重力を無視しているように見えますが、壁へ吸着する特別な器官を持っているわけではありません。爪、四肢、軽い体、長い尾、そして経路を選ぶ能力を組み合わせて、 人間の建物を立体的に利用しています。
東京都の資料が示す、クマネズミの運動能力
まず数字から見ます。東京都の防鼠資料には、 クマネズミとドブネズミの運動能力をまとめた表が載っています。 次はそのうちクマネズミに関する部分です。
| 上階へ登れる外壁の構造 | コンクリートブロック、表面の粗いもの |
|---|---|
| 水平歩行が可能な構造 | 電線、網(ドブネズミは電線を歩けません) |
| 出入りできる穴の大きさ | 1.25cm |
| 跳躍力 | 垂直1m/水平1.2m/4.5mの高所から水平に2.4m以上 |
| 落下 | 15m落下しても怪我をしない |
出典:東京都福祉保健局「都民のためのねずみ防除読本」(平成24年4月)15ページ。 防鼠構造検討委員会編「ビルの防鼠構造・工事マニュアル」(ねずみ駆除協議会)より作成された表。
同じ資料は、クマネズミの生態を「身軽で運動能力が高く、電線を伝ったり粗面の壁を駆け上る」と記載しています。特別に高い個体の話ではなく、この種の標準的な能力として書かれている点が重要です。
1.爪が壁の小さな凹凸をつかむ

クマネズミの足先には鋭い爪があります。 モルタル、木材、コンクリートブロック、網、凹凸のある外壁などでは、 爪を細かな出っ張りへ掛けて体を支えられます。
反対に、爪が掛からない滑らかなガラスや金属板を、何もない状態で垂直に登れるわけではありません。ただし実際の建物には、継ぎ目、固定金具、配管、ケーブル、シャッターの凹凸があります。 「壁材がつるつるだから登られない」とは言い切れないのは、このためです。
2.前足と後ろ足が役割を分担する
登るときは、前足で上方の足場をつかみ、後ろ足で壁や配管を押して体を持ち上げます。 細身の体を壁面へ近づけることで、外側へ倒れようとする力を小さくし、次の足場へ素早く移ります。
登る、止まる、方向を変えるという動作を短い間隔で繰り返すため、 遠目には壁を一気に駆け上がっているように見えます。
3.長い尾が姿勢を立て直す

クマネズミは、頭胴長より尾のほうが長いのが特徴です。 ただしこの尾は、配管へ必ず巻き付けて体を引き上げる「第五の手」ではありません。 細い足場を移動するときのカウンターバランスや、 体が回転したときの姿勢調整に役立つと考えられます。
2025年に発表されたラットの登攀研究では、尾は単なる受動的なおもりではなく、力を出す器官として能動的に使われていることが示されました。 論文は、下からの跳び上がりの勢いが弱いときほど尾からの補助的な力が大きくなること、 より深い位置から登るときには尾の使用が有意に増えることを報告し、「ラットは尾を、能動的に制御される肢として用いている」と結論づけています。
この研究について正直にお伝えします。対象はクマネズミ(Rattus rattus)ではなく、 実験用のロングエバンス系ラット(Rattus norvegicus=ドブネズミの系統)です。そのままクマネズミに当てはめることはできません。ここでは「長い尾は登攀時に受動的なおもり以上の働きをしうる」という一般的な示唆として扱い、 クマネズミについては、長い尾と細い場所でのバランス能力が 高所行動を支える要素のひとつと捉えるのが適切です。
4.「登れる場所」を選ぶ能力も重要
クマネズミは、どんな壁でも正面から登るわけではありません。 爪が掛かる面、体を支えられる角、連続する配管や電線などを選びます。
東京都の資料も、クマネズミについて「電線やパイプなどを伝ったり、粗い壁や閉じたシャッターなどをよじ登って侵入することができます」と説明し、侵入口を探すときは「屋上から地上まで丹念に探すことが大切です」としています。 地面だけでなく、建物の側面から屋上までを移動範囲として考える必要があります。
5.上った先に、屋根裏への入口がある
外壁を登れるだけでは、室内へは入れません。 しかし、その先に次のような隙間があると、侵入口として利用される可能性があります。 いずれも東京都の資料が「侵入経路になりやすいところ」として挙げている箇所です。
- 屋根の下の通気口
- 雨戸の戸袋
- 電線・電話線が外壁を貫通する部分と、壁とのすき間
- 屋根のひさしの下のすき間
- 配管の壁貫通部のすき間
- 壁のひび割れ、建物の基礎のすき間
- 油汚れで閉じなくなった換気扇のダンパー
通過できる隙間の目安は1.25cmです。 東京都の防鼠修繕の案内では、通気口の格子の幅が1.25cm以上の場合は1cm程度のものへ取り替えること、 広いすき間へ金網をかぶせる場合は網目幅1cm以下の金網を使うことが示されています。
「1.25cmより狭ければ絶対に安全」ではありません。穴の形や個体差、周囲の材質によって状況は変わります。 木材やプラスチックのようにかじって広げられる材質であれば、 はじめは通れない隙間でも入口になり得ます。 防鼠修繕に金属たわしや亀甲金網、不燃性のパテが使われるのは、この理由によります。
6.侵入対策は「縦のルート」まで確認する

地面付近の穴だけを塞いでも、上階へ続く配管や電線、樹木の枝、凹凸のある外壁が残っていれば、 別の経路を使われる可能性があります。
点検では、地面から軒下まで視線を上げ、 配管の固定部、外壁貫通部、戸袋、換気口、屋根まわりを連続したルートとして確認します。 枝が屋根や外壁へ接触していないか、物が足場になっていないかも重要です。
すでに屋内にネズミがいる場合
入口だけを先に塞ぐと、内部へ閉じ込めるおそれがあります。 生息状況と経路を確認し、追い出しや捕獲と侵入口封鎖を適切な順序で進めてください。 また高所の調査には転落や踏み抜きの危険があります。無理にご自身で行わず、専門業者へご相談ください。
よくある質問
クマネズミはガラスや金属板も登れますか?
爪が掛かる面がなければ、何もない垂直のガラスや金属板を登ることはできません。ただし実際の建物では、継ぎ目、固定金具、配管、ケーブル、シャッターの凹凸などが足場になります。「つるつるだから安心」とは言い切れません。
何cmのすき間から入りますか?
東京都の資料では、出入りできる穴の大きさの目安として1.25cmが示されています。防鼠修繕では、通気口の格子が1.25cm以上の場合は1cm程度のものへ取り替え、金網は網目幅1cm以下のものを使うよう案内されています。ただし木材などはかじって広げられる場合があります。
侵入口を自分で塞いでもいいですか?
すでに屋内にネズミがいる場合、入口だけを先に塞ぐと内部へ閉じ込めることになります。生息状況と経路を確認したうえで、追い出しや捕獲と封鎖を適切な順序で進める必要があります。また屋根まわりの作業には転落や踏み抜きの危険があるため、高所はご自身で行わないでください。
まとめ
クマネズミが高所へ登れる理由は、吸盤のような一つの器官ではありません。爪で凹凸をつかみ、四肢を連動させ、軽い体を壁へ寄せ、 長い尾で姿勢を調整しながら、登りやすい経路を選んでいるからです。
- 粗い外壁やコンクリートブロックは、上階へ登る足場になる
- 電線や網の上は、水平に歩ける
- 出入りできる隙間の目安は1.25cm。金網は網目幅1cm以下
- 垂直1m、水平1.2mの跳躍力があり、15m落下しても怪我をしない
- 侵入口の点検は、地面ではなく屋上から地上まで
家の外壁は、クマネズミにとって立体的な移動経路です。 侵入対策では穴だけを見るのではなく、そこへ到達する配管、電線、壁面、戸袋、樹木まで含めて確認する必要があります。
「屋根裏で音がする」だけで、十分でございます
現地調査・お見積り・出張費は0円。何もいなければ「おりません」と正直にお伝えします。
その場でのご契約は求めません。
参考資料
- 東京都福祉保健局「都民のためのねずみ防除読本(自分でできるねずみ対策)」平成24年4月
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/24nezumipannfu - 東京都保健医療局「ねずみ」(東京都ねずみ防除指針)
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/kankyo/eisei/yomimono/nezukon/nezumi/ - Resourcefulness, Robustness, and Recovery: Tail Use during Climbing in Rats.Integrative and Comparative Biology, 65(6), 1635–1648(2025年)
https://doi.org/10.1093/icb/icaf108
登った先の屋根裏で電線をかじられると、どうなるのか。こちらの記事で、NITEの事故集計をもとに整理しています。 東京のネズミ相談件数の推移はこちらです。
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