なぜアライグマは増えている?
高い妊娠率と雑食性に隠された生存戦略

アライグマは2005年に特定外来生物に指定され、全国で防除が続けられています。 それでも分布は広がり続け、環境省の調査では関東地方では市街地を含む全域で確認されるようになりました。 なぜここまで増えるのか。公的な資料の数字だけで整理します。
そもそも、どこから来たのか
アライグマは北アメリカ原産の動物です。日本で最初に野生化が報告されたのは1962年(昭和37年)、愛知県犬山市でした。 動物飼育施設で飼われていた12頭が柵から脱走したものです。
その後、1977年(昭和52年)にアライグマを主役としたテレビアニメが放映されると ブームが起き、ペット用に大量に輸入されるようになりました。 環境省は、現在国内に定着しているアライグマはこの時期に輸入された個体に由来すると考えられるとしています。
飼いきれずに逃げられた、あるいは放された。 その積み重ねが、いまの分布につながっています。
環境省はこう書いています。「手先が器用で力も強く、木登りも巧みなアライグマは、安易な飼育体制ではすぐに脱走してしまいます。 しかし、当時はそうした認識も十分ではなかったのでしょう」
理由1|成長したメスの、ほとんどが妊娠する
北海道で捕獲された個体を北海道大学が調べた結果が、 2003年の中央環境審議会で報告されています。
出典:中央環境審議会野生生物部会 第3回移入種対策小委員会 会議録(2003年4月15日) 北海道による報告。産子数は平均約4頭。
2歳以上のメスは、ほぼ全個体が妊娠しているということです。 国立環境研究所のデータでは、産仔数は3〜6頭とされています。
意味するところは単純です。一部の個体を捕獲しても、繁殖できるメスが残っていれば、 翌年には新しい世代が加わります。発見や対策が遅れるほど、少数だった集団が周辺へ広がっていきます。
この数字について正直に。これは2003年に報告された、北海道の捕獲個体の調査結果です。すべての地域で同じ妊娠率になるとは限りませんし、20年以上前のデータです。それでも「成長したメスの多くが繁殖できる」という性質そのものは、 個体数が増えやすい理由を考えるうえで押さえておく価値があります。
捕獲の「時期」が結果を分ける
同じ報告のなかに、実務的に重要な指摘があります。 北海道でアライグマの幼獣が捕獲されるのは7月以降で、6月までは巣穴で母親に育てられています。
つまり6月末までに母親を捕獲できれば、幼獣の増加もあわせて抑えられる。 逆に7月以降にいくら数を捕っても、その年の個体数はほとんど減りません。 同じ頭数を捕獲しても、時期によって結果がまったく変わるということです。
理由2|季節に合わせて、食べ物を変えられる

もうひとつの強みが、食べ物を限定しない雑食性です。国立環境研究所は、 アライグマの食性をこう記載しています。
雑食性で小哺乳類・魚類・鳥類・両生類・爬虫類・昆虫類・野菜・果実・穀類等、夏は動物質を秋は植物質を多く摂取する
季節によって食べるものを切り替えられるという点が重要です。 特定の餌に依存していないため、季節が変わっても、生息場所が変わっても、 食べ物を確保できます。
市街地では生ごみや、屋外に置かれたペットフードが餌になります。 農村部ではトウモロコシ、スイカ、メロン、イチゴなどが被害の対象です。
被害の見分け方には、はっきりした特徴があります
アライグマは夜に活動するため、姿を見ないまま被害だけが進むことがよくあります。 ただし環境省は、加害の跡に特徴があると指摘しています。
- スイカなどの皮に小さな穴を開けて、果肉だけをすくい出す
- トウモロコシの皮をむいて食べる
指が長く器用な前足を持つためです。 丸ごと食い荒らされているのではなく、「中身だけ、きれいに抜かれている」なら、アライグマを疑ってください。
理由3|都市でも農村でも暮らせる
アライグマは木登りが得意で、泳ぎもできます。 巣に使うのは木のうろや岩穴だけではありません。人家や畜舎、寺社の屋根裏も使います。
自然環境では動植物を食べ、農地では作物を狙い、住宅地では人が出す食べ物を利用する。 ひとつの餌や環境に依存しないため、都市から農村まで幅広く定着できます。
環境省は、分布の変化をこう報告しています。
2005〜2006年のアライグマの分布と最新の分布を比較すると、分布範囲が著しく拡大しています。 (中略)関東地方、東海地方、近畿地方では市街地を含む全域で確認されるようになりました
国立環境研究所の侵入生物データベースでも、国内の移入分布は「ほぼ全国」とされ、日本の侵略的外来種ワースト100に選定されています。
一都三県では、どこまで広がっているのか
環境省は毎年、全国の市区町村にアンケートを行い、 特定外来生物の侵入状況を調べています。令和7年度の最新結果から、アライグマの項目を一都三県で集計しました。
| 確認あり | 割合 | 備考 | |
|---|---|---|---|
| 埼玉県 | 63/63 | 100% | 全市町村で確認 |
| 千葉県 | 53/54 | 98% | 神崎町のみ情報なし |
| 東京都 | 53/62 | 85% | 情報なしの9はすべて島しょ部 |
| 神奈川県 | 28/33 | 85% | 情報なしは箱根町など5町村 |
出典:環境省「令和7年度 特定外来生物の市区町村別侵入状況の把握のためのアンケート」調査結果 (国立環境研究所 侵入生物データベースにて公開)。 2024年度または2023年度以前に確認されたものを「確認あり」としています。
197/212市区町村
全区で確認
1,221/1,741
一都三県の92.9%は、全国平均の70.1%を大きく上回っています。埼玉県は63市町村すべてで確認されており、 これは全国で8つしかない「全市区町村で確認された県」のひとつです。
東京都の85%という数字は低く見えますが、情報がない9市町村は、すべて大島・三宅・小笠原などの島しょ部です。島を除いた本土53市区町村では、すべてで確認されています。そして23区は、23区すべてで確認ありです。
数字の読み方について。この調査は自治体へのアンケートにもとづくもので、 「情報なし」は「生息していない」という意味ではありません。回答がなかった場合も含まれます。 また環境省・国立環境研究所も、都道府県単位の分布地図とは作成方法が異なるため両者が一致しない部分があると注記しています。 実際の分布は、この数字より広い可能性があります。
増加を支えるのは「繁殖」と「適応」
アライグマが増える理由は、単に子どもの数が多いからではありません。
毎年、次の世代を残す
食べ物を確保できる
高い妊娠率で数を増やし、雑食性で新しい環境に入り込む。この二つが組み合わさることで、少数からでも集団を拡大できます。
住宅で起こる被害
かわいらしい外見とは裏腹に、アライグマは屋根裏に入ると次のような被害を出します。
- 天井に穴を開ける、爪痕を残すなど家屋の損壊
- 糞尿による天井のシミ・悪臭・断熱材の汚損
- アライグマ回虫や狂犬病など、人と動物に共通する感染症を媒介する危険
- タヌキなど在来の中型哺乳類との競合、サギ類の営巣妨害
ご自身で対処しないでください
アライグマは特定外来生物です。許可なく捕獲・運搬・飼育することは 外来生物法で禁じられています。また気性が荒く、追い詰められると攻撃してきます。餌を与えず、自分で捕まえず、自治体の担当窓口へご相談ください。
よくある質問
アライグマを見つけたら、自分で捕まえてもいいですか?
いけません。アライグマは特定外来生物で、許可なく捕獲・運搬・飼育することは外来生物法で禁じられています。また気性が荒く、咬まれる危険もあります。見かけても近づかず、お住まいの自治体の担当窓口へご相談ください。
タヌキとの見分け方は?
尾を見てください。アライグマは尾に4〜10本の黒い輪があり、タヌキにはありません。また目のまわりの黒い模様が、アライグマは左右につながっておらず、鼻すじに白い線が通ります。足跡は指が長く、人の手形のように見えます。
屋根裏にいるのがアライグマかどうか、音で分かりますか?
ある程度は絞り込めます。体長40〜60cmと猫ほどの大きさがあるため、ドタドタという重い足音になります。加えて、硬いものを削ったりこじ開けたりする音が混じるのが特徴です。ただし確定には屋根裏の目視調査が必要です。
まとめ
- 国内定着の起点は1962年の犬山市。12頭の脱走から始まった
- 1977年のアニメでブームとなり、輸入された個体が各地で野生化
- 北海道の調査では2歳以上のメスの妊娠率96%、産子数は平均約4頭
- 6月末までに母獣を捕獲できるかどうかで、その年の結果が変わる
- 夏は動物質、秋は植物質。季節で食べ物を切り替えられる
- 環境省の調査では関東地方は市街地を含む全域で確認
- 市区町村別では一都三県の92.9%(197/212)で確認。 東京23区は全区、埼玉県は全市町村
屋根裏から重い足音がする、天井にシミが広がってきた、庭の作物の中身だけが抜かれている。 心当たりがあれば、確かめるところまでは早いほうがいい、というのが私たちの実感です。
「音がする」だけで、十分でございます
現地調査・お見積り・出張費は0円。何もいなければ「おりません」と正直にお伝えします。
その場でのご契約は求めません。
参考資料
- 環境省 生物多様性センター「分布を拡大し続ける外来哺乳類 アライグマ・ハクビシン・ヌートリア」(2018年3月)
https://www.env.go.jp/press/files/jp/109906.pdf - 中央環境審議会野生生物部会 第3回移入種対策小委員会 会議録(2003年4月15日)
https://www.env.go.jp/council/former2013/13wild/y132-03a.html - 環境省「令和7年度 特定外来生物の市区町村別侵入状況の把握のためのアンケート」調査結果
https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/moe2024_0927.xlsx - 国立環境研究所「侵入生物データベース|アライグマ」
https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/10150.html
ネズミについては東京のネズミ相談件数の記事、電線をかじる理由の記事でも公的資料をもとに整理しています。
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